意外なライバル

「俺は死後の世界を見た」

「……大げさすぎ」

納豆ご飯を食っていた俺に「それは何だ?」と不思議そうな顔をして訊ねてきたから一口くれてやったら感想がコレだ。

「口の中が気持ち悪い……くさい……」
「あー、口ゆすぐとネバつきはとれるんだぜ?うがいしてこいよ」

聞くやいなや、ガタンッっと大きく椅子を揺らし立ち上がるとダッシュで洗面台へかけていった。
俺はその姿を見送って食事を再開する。

しばらくすると跡部は多少よろめきつつ戻ってきた。
椅子をひきながら俺の手元を見て眉を潜める。

「お前、よくそんなもの食えるな」
「まーな。っつか日本人はたいていみんな食ってんぜ?」
「庶民は恐ろしいな……」

何が恐ろしいもんか。この言葉と共に最後のご飯をかきこむといきおいよく茶碗を置いた。

「あー、ごっそーさんっ!」
「ごちそうさま、だ」

へいへい、と生返事を返し茶碗を片付けるべく立ち上がった。

跡部はこーゆートコうっせーんだよなー。
マナーに関してはうるさい跡部を見てると立海の厳格な副部長を連想して少し笑ってしまう。

「おい、何笑ってんだ?」
「べっつにー?それよかさ、先に部屋いってろよ。俺うがいしてからいくから」

俺が部屋にいくと跡部は俺のベッドに腰掛けたままこちらを見ていた。

俺は本棚からてきとうに漫画をひっつかむとベッドに放り投げて自分もそこにダイブした。
そしてやわらかい布団の上にうつぶせになって漫画を読み始める。

跡部は黙って俺の髪をいじりはじめた。俺も黙って跡部のしたいようにさせてやる。

跡部の手は髪をいじって、頭をなでて、首もとをさすって、背中をなぞって……。
指がシャツの裾にたどり着くと、するりとシャツの中に滑り込ませた。
今度は逆に背中を滑り上がっていく。跡部の手の動きにあわせてシャツもだんだんと上にあがり背中がさらけ出される。

俺は背中に空気が触れる感触を感じてたまらず跡部に抗議の視線を向けた。
そうすると待ってましたとばかりに口の端をあげる跡部の顔とかち合う。

やられた。

跡部は俺のあごを掴んで上を向かせると身を乗り出してゆっくりと近づけてきた。
彼の端正な顔が目前に迫ったとき、俺は跡部の口元に手を当てて制止をかけた。

「日本人にはな、納豆や餃子を食った後はキスしちゃいけねえって決まりがあんだよ」
「……覚えておく」

先ほどの納豆の味や臭いを思い出したのだろう。跡部は苦笑しつつ俺の身体を離した。
俺はシャツを元通りに直すとまた布団に転がって漫画を読み始めた。

こっそりと跡部のほうをみると少し複雑そうな表情が見えて、なんだか勝ったような気がして自然と口元がほころぶ。

たまにはこういうのも悪くないな。俺は視線を漫画に戻してページをめくった。

*おまけ

後日

「……俺といるときくらい納豆食うのやめろ」
「だってうめーんだもん」
「せめてキスしてから食え」
「それじゃー意味ねーんだよ」
「……てめえ、わざとか……」